「布団に入って3分で寝られます」。若い頃からひそかな自慢でした。眠れずに悩む人に披露すれば嫌われるだけの話ですが、睡眠にうるさい鍼灸師のくせに、私はこれを眠りの達人の証だと信じていたのですから、お粗末な限りです。というのも最近、寝つきの速さは眠りの質ではなく、眠気の強さを示しているにすぎない、と知りました。長年の自慢が、ただの「眠かっただけ」に格下げです。
眠気が強ければ、早く落ちます。徹夜明けなら誰でも秒で寝ます。大事なのはその後です。深い睡眠は夜の前半に集中して現れ、お酒を飲むと、この深い睡眠はむしろ増える傾向があります。だから飲んだ夜は「ぐっすり」に感じるのですが、後半になると眠りは途切れやすくなり、前半の貯金は帳消しになります。寝つきが良くなるのは体重60キロでビール中瓶2本半以上というかなりの量ですが、中瓶1本半以下の少量でも、レム睡眠は始まりが遅れて短くなると報告されています。寝たのではなく、気絶しただけ。晩酌のグラスを片手に「俺は寝つきだけは優等生だ」と自画自賛している時すでに、レム睡眠はそっと荷物をまとめ、夜逃げの支度を始めています。残された借金の取り立ては、翌朝、疲れという請求書になって届きます。
では何を見て睡眠を評価すれば良いのでしょうか。私が患者さんに尋ねているのは、夜ではなく朝のことです。アラームの前に目が覚めるなら、後半の睡眠が崩れているのかもしれません。起きたときに身体が重く、口が乾くなら、口呼吸も含めて、いびきや睡眠時無呼吸を疑います。とくに糖尿病の治療中の方では、寝汗や起床時の頭痛があれば、夜間に血糖が下がっている可能性もあります。無呼吸の潜在患者は国内に940万人以上ということですが、治療を受けているのは1割に満たないそうです。また重症では心血管の病気や死亡のリスクが約3倍という報告もあります。寝る前の飲酒はいびきも悪化させます。寝つきの良さに安心している間に、静かに進む人もいるのです。自律神経との関係はこちら、眠りの個人差はこちらにも書きました。
たとえば、毎晩の晩酌で、横になった瞬間に寝てしまう方。「寝つきだけは自慢です」と胸を張るのに、朝はアラームの前に目が覚める。まず見直すのは、お酒の最後の一杯の時間。目安は就寝の3〜4時間前までで、入浴は就寝の1〜2時間前に40℃前後の湯船で15分ほど。いびきを指摘される方は、自己採点より先に、医療機関で検査を受けてください。逆に、寝つきそのものに悩む方には、認知行動療法という方法があります。
さて、偉そうに書いてきた私はどうでしょう。毎朝3時45分起きで、昼寝がないと午後がもたない人間が、3分で寝られるのは当たり前でした(昼寝をするようではだめなのか?)。睡眠の専門家ぶる前に、まず自分の朝を採点するべきでした。今週は私も、起床時の爽快感と午前中の頭の冴えを○×でつけてみます。眠りの良し悪しを見るなら、夜の寝つきより、朝の「ぐっすり眠れた」という感覚、専門用語でいう睡眠休養感のほうがよほど手がかりになります。自分の○×に自信がない方は、よければ七施鍼灸院でご一緒に見ていきましょう。
参考
- The effect of alcohol on subsequent sleep in healthy adults: A systematic review and meta-analysis(Gardiner ら、2025)(日本語解説:ITmedia)
- Alcohol and Sleep I: Effects on Normal Sleep(Ebrahim ら、2013)の解説記事(ScienceDaily)
- 寝る前のお酒が睡眠に与える悪影響(crexgroup.com)
- 入浴と睡眠の研究(秋田大学ほか、2023・予備的研究)
- Sleep Latency(Sleep Foundation)
- MSLT(反復睡眠潜時試験)(岡山大学)
- 睡眠時無呼吸症候群の国内の潜在患者数は940万人以上(ケアネット)
- 睡眠呼吸障害の疾患概念,疫学,予後(榊原・井水、medicina 2007)
- 睡眠時無呼吸症候群(健康長寿ネット)
- 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(MSDマニュアル)
- 睡眠休養感と健康・死亡リスク(日本睡眠学会の解説資料)
- 良い睡眠の概要(案)(厚生労働省)
- Nocturnal hypoglycemia(HealthLink BC)
- 不眠症の認知行動療法(武蔵小杉こころみクリニック)
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