よだれは幸せのバロメーター?|唾液が語る「副交感神経」のはなし

子育てについて

赤ちゃんが、だらしなくよだれを垂らしている。

その姿を見て、「かわいい」と目を細めたことはありませんか?

実はあれ、ただの「液漏れ事故」ではありません(笑)。

もちろん、口の中の発達や唾液腺の成熟、飲み込む機能など、理由はいろいろあります。

でも、唾液は自律神経とも深く関係しています。

リラックスしているときには、サラサラとした唾液がよく出る。

反対に、面接や大事な発表の前になると、

「口の中がカラカラ……」

なんてことがありますよね。

緊張すると交感神経が優位になり、唾液が減って口の中が乾きやすくなる。

つまり唾液は、今の自分がどれくらい緊張しているのかを知る、小さなサインでもあるわけです。

赤ちゃんの「だらーん」としたよだれを見ると、

「ああ、この子は今、安心しているんだな」

と、ますます愛おしく見えてきます。

吸うこと、よだれ、そして口の発達

赤ちゃんには「吸啜反射」という原始反射があります。

唇に何かが触れると、反射的にちゅぱちゅぱと吸いつく、あの動きです。

以前の記事「舌を使い顎を使い、口腔を育てる」でも書きました。

「吸う」のは、母乳やミルクを飲むためだけではありません。

舌や顎を動かし、口まわりの筋肉を使い、唾液の分泌も促します。

赤ちゃんは、

「はい、今日は舌を10回動かしましょう」

なんて教えられなくても、勝手にやっている。

教育係もインストラクターもいらない。

人間の体、なかなかの自動運転です。

こうした本能の積み重ねが、口腔の発達につながっていく。

育児とは、大人が何でも教え込むことではなく、もともと子どもが持っている力を邪魔せず見守ることでもあるのだと思います。


乳幼児期に経験する反射や身体の動きは、言葉になる前の「無意識」の土台を育てているのではないか。

そんなふうに思うようになりました。


効率化しすぎる育児は、口の中まで追いかけてくる

現代の子育ては、何かと「効率」が求められます。

早く飲める。

早く寝る。

早く泣き止む。

親としては助かります。

なにしろ赤ちゃんは、こちらの都合など一切考えてくれませんから(笑)。

もちろん、ミルクが悪いと言いたいわけではありません。

母乳でもミルクでも、それぞれの家庭に事情があります。

ただ、

「とにかく飲めれば正解」

「泣き止めば勝ち」

と、何でも効率で片づけてしまうのは少し違う。

口は、食べるだけでなく、呼吸や発音、飲み込むことにも関わっています。

だからこそ、赤ちゃんの「吸う」「舐める」「噛む」を、少し長い目で見てあげたい。

育児のショートカットが全部悪いわけではありません。

でも、口の発達は「あとで取り戻そう」がなかなか大変な分野です。

ラクを選んだツケは、何年か後に、かみ合わせや口呼吸、いびきという形で、静かに、でも確実に請求書が届くこともあります。


本能を育てることは、生きる力を育てること

よだれが多ければ幸せ、というわけでもない

ここで話をややこしくしておきます(笑)。

七施鍼灸院には、ときどき、

「よだれが止まらなくて困っています」

という妊婦さんが来られます。

いわゆる「よだれづわり」です。

妊娠中はホルモンの変化などによって、吐き気や唾液分泌に変化が起こることがあります。

唾液が増えて口の中にたまりやすくなり、それがまた吐き気を誘発する、という悪循環になることもあります。

同じ「よだれ」でも、

安心して眠っている赤ちゃんのよだれと、

「お願いだから、このよだれ何とかして……」

と困っている妊婦さんのよだれでは、意味がまったく違う。

何ごとも「多ければ良い」わけではありません。

健康って、ほんとに面倒くさい(笑)。

私たちは、ちゃんとリラックスできているのか?

話を大人に戻します。

鍼灸師として日々、人の体を触っていると、

「この人、ずっと緊張しているな」

と感じることがあります。

肩に力が入っている。

呼吸が浅い。

口の中まで乾いている。

仕事中はパソコン。

食事中はスマホ。

布団に入ってもSNS。

……そりゃ体も休む暇がありません(笑)。

「リラックスしなきゃ」と思って、リラックス法を検索している人もいる。

もうその時点で、リラックスから一番遠いところにいる気がします(笑)。

大切なのは、副交感神経だけ優位にすればいい、という単純な話ではありません。

活動したら休む。

緊張したら緩む。

交感神経と副交感神経が、必要に応じて切り替わる。

その「振れ幅」があることが大切なのだと思います。

以前、温冷浴の記事でも書きましたが、私はリラックスとは「快と不快の間をしっかり揺れること」だと考えています。

ずっと緊張しっぱなしでも、ずっと緩みっぱなしでもない。

振り子のように行ったり来たりできる体。

それが、休める体なのではないでしょうか。


「リラックス」とは、単に副交感神経を優位にすることではありません。
一度、交感神経を刺激し、そのあとに副交感神経を働かせることで、振り子のように自律神経の“揺らぎ”をつくる。
そこに本当のリラックスがあると私は考えています。

そして私も、舌の位置を知らなかった

そんな偉そうなことを書いている私ですが、「舌の正しい位置」を知ったのは、恥ずかしながらこの歳になってからです。

舌全体を上顎に自然に置く。

それを知ってからというもの、思い出すたびに、

「舌、上顎」

と確認するようになりました。

筋トレ中も、

「舌、上顎……」

スクワットしながら、

「舌、上顎……」

バーベルを持ち上げているのか、舌を鍛えているのか、自分でもよく分からなくなってきます(笑)。

食いしばりに気をつけながら舌の位置を意識することも続けていて、気づけば両方の鼻でしっかり呼吸できるようになっていました。

何歳になっても、「知らなかった」はある。

知ったら、ちょっとやってみることもできる。

体づくりは、案外そういう小さな積み重ねなのかもしれません。

よだれは、体から届く小さな手紙

よだれは、恥ずかしいものでも、ただ拭き取って終わりのものでもありません。

赤ちゃんにとっては、口腔発達の過程で現れる自然な姿のひとつ。

そして大人にとって唾液は、

「今、体は緊張しているのか」

「ちゃんと休めているのか」

を考える、小さな手がかりになります。

口の中がカラカラ。

呼吸が浅い。

顎に力が入っている。

そんなときは、

「もっと頑張らなきゃ」

ではなく、

「ちょっと力を抜こうかな」

と体に声をかけてあげてもいいのかもしれません。

よく噛む。

口をしっかり動かす。

鼻で呼吸する。

深く息を吐く。

ちゃんと眠る。

そんな当たり前のことが、案外、体を整える基本だったりします。

もちろん、会議中に赤ちゃんのようによだれを垂らしていたら、

「先生、相当リラックスしてますね」

とは言ってもらえないでしょう。

たぶん、

「大丈夫ですか?」

です(笑)。

七施鍼灸院では、肩こりや腰痛だけでなく、

「なんとなく体に力が入っている」

「眠っても疲れが取れない」

「呼吸が浅い気がする」

といった、病気と呼ぶほどではないけれど、確実にしんどい体の声にも耳を傾けています。

症状だけを追いかけるのではなく、体全体を見ながら、本来持っている「緩む力」「回復する力」を引き出していく。

たまには赤ちゃんを見習って、ふわっと力を抜いてみませんか。


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