膝が痛い。
水が溜まっている。
「じゃあ抜きましょう。痛み止めも出しておきましょう」
——で、めでたしめでたし。
となるなら、僕らみたいな仕事は、とっくに廃業している。
世の中、そんなに甘くないから、僕らみたいな仕事が成立しているわけです(笑)。
よく、
「水を抜くとクセになる」
「痛み止めは根本治療じゃない」
と言われます。
半分正解で、半分は的外れです。
関節に水が溜まった状態では、関節包が伸びて動かしにくくなったり、大腿四頭筋の働きが抑えられたりすることがあります。
だから、「水を抜く」こと自体が悪いわけではありません。
痛み止めも同じです。
急性期の痛みや炎症を抑えて、動ける状態をつくる。
これは大切な役割です。
問題は、その先です。
痛みというブレーキだけ外しても、車は直らない
膝の使い方は変わらない。
太ももの筋力も変わらない。
歩き方の癖も、体重の乗せ方も変わらない。
何ひとつアップデートされていないのに、水を抜き、痛み止めを使うことで、痛みという名のブレーキだけが外れる。
すると、どうなるか。
答えはだいたい決まっています。
「動けるようになった」を、
「治った!」と勘違いする。
そして、以前と同じか、それ以上に動いてしまう。
痛みが消えたことを、
「もう無理していいですよ」
という許可証にしてしまうわけです。
すると薬が切れた頃には、
「前より痛くなってる……」なんてことも起こり得るわけです。
もちろん、これは痛み止めが悪いわけではありません。
痛みが消えたことと、身体の機能が戻ったことは、別の話だからです。
じゃあ、痛みは我慢すればいいのか?
これも違います。
痛みを怖がって動かなければ、今度は筋力が落ちる。
関節も動かしにくくなる。
そして、
動けない
↓
弱る
↓
さらに動けない
↓
もっと痛い
という、別の地獄が始まります。
つまり、
「痛みを取るか、我慢するか」
という二択そのものが間違っているんです。
本当に必要なのは、
痛みをコントロールしながら、身体の機能を取り戻していくこと。
筋力を戻す。
関節を動かす。
そして、どの方向に体重をかけ、どのように関節を使うのか。
いわば「動きのベクトル」を立て直していく。
地味です。
面倒くさいです。
でも、ここをやらないと、本当の意味で身体は変わりません。
ここに鍼灸の出番がある

では、鍼灸は何をするのか。
鍼灸は、痛みを軽減しながら、身体を「動かせる状態」に整えていくことをサポートできます。
筋肉の緊張の偏りや、動きの癖によって負担が集中している場所などにアプローチし、痛みを和らげながら、運動療法やリハビリに取り組みやすい状態をつくっていく。
私は、鍼灸の役割をそんなふうに考えています。
痛みを完全にゼロにすることだけを目標にするのではなく、
「身体を動かして、機能を取り戻すための作業スペースを確保する」
というイメージです。
痛みが強すぎれば、運動もできません。
だから、まず痛みをコントロールする。
そして、動けるようになったら、そこで終わらない。
- 筋力をつける。
- 身体の使い方を見直す。
- 姿勢や歩き方も変えていく。
この両輪が大切なんです。
もちろん、鍼灸だけで筋力がつくわけではありません。
動きの癖が、鍼一本で勝手に直るわけでもありません。
そこは正直に言っておきます。
鍼一本で歩き方まで治ったら、私はとっくに国家資格ではなく、魔法使いの免許を取りに行っています(笑)。
「痛みが消えた」は、ゴールではない

痛み管理と機能改善。
どちらか一方だけでは足りません。
痛みを抑える。
そして、動く。
動けるようになったら、筋力や身体の使い方を立て直す。
その順番を間違えずに、少しずつ積み重ねていく。
一見すると遠回りに見えます。
でも、実はこれが一番の近道だったりします。
実際にこの順番で結果が出た例もあります。
両膝人工関節から10年、5段の階段さえ後ろ向きでしか降りられなかった85歳の方が、鍼灸と運動指導を組み合わせた結果、駅の32段を前向きで降りられるようになったという前に書いた話です。
七施鍼灸院は
① 鍼灸で痛みを安全に和らげる
② 体を整える
③ 正しい動きを入れる
④ それを習慣にする
ここまでやる。
痛みだけ消して、
動きが変わらなければ、
また壊れる。
整えてから使う。
この順番。
痛みを取るだけでは、階段は降りられない。――85歳女性の32段の挑戦
痛み止めを使うことも、水を抜くことも、決して悪いことではありません。
必要なときには、ちゃんと使えばいい。
ただし、
「痛みが消えた=治った」ではない。
ここだけは覚えておいてほしい。
痛みが消えたら、ゴールではありません。
そこからが、身体を立て直すスタートです。
「痛みが消えたら勝ち」
と思っている人へ。
……それ、まだスタートラインにも立っていませんから(笑)。

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