以前の私は、
「母乳でもミルクでも、元気に育てばそれでいい。」
と考えていました。
そして今も、その考えは、あながち間違ってはいないと思っています。
ただ、人は学べば学ぶほど、「知らないこと」が増えていくものですね。
若い頃は、「もう分かった」と思うことが多かったのですが、最近はその逆です。
「なるほど、そういう見方もあるのか。」
そんなふうに考え直すことが増えました。
今回の母乳の話も、その一つでした。
ミルクに否定的な意見を目にすることもありますが、さまざまな事情で母乳育児が難しい方もいますし、ミルクは赤ちゃんの命を支える大切な存在です。
また、ミルクには、お父さんを育児に引き込みやすいという大きな魅力があります。
授乳を分担できることで、お父さんが赤ちゃんと過ごす時間が自然と増え、育児に主体的に関わるきっかけにもなります。
私は、「家族みんなで子育てをする」という意味では、ミルクは本当に素晴らしいものだと思っていました。
……いや、正確には、「それだけで十分」だとすら思っていました。
ところが最近、母乳について学ぶ機会があり、特にBSケアに取り組まれている助産師さんとのお話を通して、
「母乳には、栄養以上の役割がある。」
そう考えるようになりました。
BSケアは、赤ちゃんが母乳を飲むときの自然な吸啜(きゅうてつ)の仕組みに倣って行う、助産師による乳房ケアです。
乳房を強く揉んだり押したりするのではなく、赤ちゃんの吸い方を手で再現するようなやさしいケアを通して、お母さんの心と身体に寄り添いながら、母乳育児を支えます。
乳房だけを診るのではなく、お母さんと赤ちゃん、そして家族全体を大切に考える「ケアリング」の姿勢を重視していることも、BSケアの大きな特徴です
その考え方は、私が鍼灸師として大切にしている、
「人が本来持っている力を信じ、その力を支える」
という考え方とも、不思議なくらい重なっているように感じています。
今回は、そのことについて書いてみたいと思います。
赤ちゃんは母乳を「吸う」のではなく「しごく」
私たちはよく、
「赤ちゃんがおっぱいを吸う」
と言いますよね。
でも実際には、ストローのように吸い上げているわけではないそうです。
助産師さんのお話によると、まず赤ちゃんは、口全体で乳首を深くくわえ、しっかりと密着します。
そして舌先を細かく上下に動かして乳房を刺激し、母乳の分泌を促します。
母乳が出始めると、今度は舌全体が前から後ろへ波打つように動き、乳首をやさしく「しごく」ようにして母乳を飲んでいくのだそうです。
乳牛の手搾りも同じですよね。
乳首を上から下へ、やさしくしごいて乳を出します。
決して掃除機のように「吸って」いるわけではありません。
これは哺乳類に共通する、ごく自然な授乳の仕組みなのだそうです。
しかも赤ちゃんは、これを誰かに教わることなく、吸啜反射という生まれながらの反射によって自然に行っています。
人間って、最初からなかなかよくできています。
私なんて、説明書を読んでも家電を使いこなせないことがあるというのに(笑)。
母乳は口腔を育てる
この一連の動きは、単に母乳を飲むためだけのものではありません。
舌を上顎にしっかりとつけながら動かすことで、本来あるべき舌の位置を自然に身につけていきます。
舌が正しい位置にあることは、鼻呼吸を促し、口腔の発達や歯並びにも良い影響を与えると考えられています。
さらに、顎をしっかり使うことで、咀嚼する力の土台も育っていきます。
もちろん、母乳を十分に経験できなかったとしても、後から練習によって身につけることはできます。
ただ、それなりに時間もかかります。
そして何より、人間という生き物は、楽にできることを、わざわざ苦労してやろうとはしません(笑)。
私も山登りが好きとはいえ、できれば登り坂より下り坂を選びたいタイプです。
赤ちゃんも案外、そのあたりは同じなのかもしれません。
だから、生まれたばかりの赤ちゃんが持っている吸啜反射を、そのまま十分に生かしてあげられることには、大きな意味があるのだと思います。
本能を育てることは、生きる力を育てること
子どもの成長というと、私たちはつい、
「運動能力」
「学習能力」
に目が向きがちです。
でも、それらを支える土台作りには、本能的な発達が必要なのではないでしょうか。
はいはいによって背骨や体幹が育つ。
母乳によって口腔機能が育つ。
探索反射。
把握反射。
吸啜反射。
嚥下反射。
歩行反射。
こうした、生まれながらに備わっている反射を十分に経験することで、「生きる土台」が育っていきます。
私たちは、高度な文明を築いた生き物です。
AIまで作ってしまいました。
便利な時代です。
私も毎日のようにAIに質問して、「なるほど!」と感心しています。
でも、その前に私たちは、自然の中で何百万年も生き抜いてきた一匹の哺乳類でもあります。
文明の進歩は素晴らしい。
一方で、ときどき自分たちが動物だったことを忘れてしまうのも、人間らしいところなのかもしれません。
だから私は、本能に沿った発達には、大きな意味があるように感じています。
助産師さんとの話から考えたもう一つのこと
もちろん、母乳育児ができるかどうかで、お母さんや赤ちゃんの価値が決まることは決してありません。
それぞれの家庭には、それぞれの事情があります。
ミルクもまた、赤ちゃんを健やかに育てるための大切な選択肢です。
その一方で、
「母乳には栄養以上の役割がある。」
この視点も、多くの方に知っていただく価値があるのではないかと、助産師さんとのお話を通して感じるようになりました。
- 赤ちゃんの口を育てる。
- 本能を育てる。
- 生きる力の土台を育てる。
母乳には、生まれながらに備わっている力を、自然な形で引き出していく役割があるのかもしれません。
この記事を書いたあと、この文章を書くきっかけをくださった助産師さんに読んでいただきました。
すると、
「実は、母乳ケアを続ける中で、お父さんの役割について、私自身の考え方も変わったんです。」
と、新しい視点を教えてくださいました。
その話を聞いて、私の考え方もだいぶ変わりました。
そして気づけば、「反射」と「無意識」、さらには「人はどうすれば、もっと自然に生きられるのか」というところまで考え始めていました。
話が大きくなりすぎて、「母乳」の記事を書いていたはずなのに、気がつけば次回のものは若干人生の話になっています(笑)。
でも、それが私らしいのかもしれません(と言っておきます)。
次回は、その助産師さんとの会話から考えるようになった「無意識」と「お父さんの役割」について書いてみたいと思います。


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