【逆子治療で伝えたかったこと・後編】胎児もまた、一人の他者

逆子治療勉強会後編|回す治療から寄り添う治療へ、河合隼雄の考えと子育てにつながる逆子治療 逆子、安産について

逆子治療勉強会を終えて感じたことを書いた前編。
今回は、その中でも多くの先生方が印象に残ったと書いてくれた「胎児もまた、一人の他者」という話について、もう少し深く書いてみたいと思います。


思い通りにならないことから始まる子育て

逆子治療を続けていると、

回る子もいます。

回らない子もいます。

鍼灸師として、お腹の環境を整えることはできます。

でも最後は赤ちゃん次第。

本当に赤ちゃん次第なんです。

この現実を何度も経験すると、

「治す」という発想だけでは説明できない場面に、何度も出会います。

だから私は、

逆子治療は、

赤ちゃんの向きを変える治療であると同時に、

親になる準備を支える時間

でもあるのではないかと思うようになりました。


河合隼雄先生が教えてくれたこと

心理学者・河合隼雄先生の本の中に印象的な言葉があります。

人間は他人のたましいを直接には癒すことができない。

われわれは、その人を丸ごと好きになることと、出来る限りの自由を許すことが必要なのである。

河合先生は『思い出のマーニー』に登場するペグ夫妻の姿を通して、

アンナに本当に必要だったのは、

「丸ごと好きになってくれる存在」

だと書かれていました。

そして、心理療法家の役割とは、

ただその人を丸ごと受け入れる存在であること。

おそらく、それだけで十分なのだろう。

しかし、それがどれほど難しいことか。

そんなことも書かれていました。

私はこの文章を読んだとき、

「ああ、これは子育ても同じなんだ。」

と思ったのを今でも覚えています。


子どもは思い通りにならない

実際に子育てを始めると、

「なんでそうなる?」
「それ選ぶ?」
「え? 今それ?」

そんな毎日です(笑)。

親は、

「こう育ってほしい」
「こうあるべき」

と思ってしまいます。

でも、
子どもは親の作品ではありません。

一人の人間です。

だから、

丸ごと受け入れ、その子なりの歩みを信じる。

言葉にすると簡単ですが、本当に難しい。

私自身、何度も失敗してきましたし、思い返せば反省ばかりです。


胎児もまた、一人の他者

この考え方は、

実は逆子治療にも、そのままつながります。

胎児もまた、一人の他者です。

こちらが思い通りに動かす相手ではありません。

逆子にも、

何か理由があるのかもしれない。

今はまだ動きたくないのかもしれない。

あるいは、

頭を下にする準備の途中なのかもしれない。

もちろん、本当の理由は誰にも分かりません。

だから私は、

「なぜ逆子なのか」

という原因探しよりも、

「この子には、この子なりの事情があるのかな」

そんな気持ちで眺めています。

そして、

「頭を下にした方が、少し楽かもしれないよ。」

そう、お灸や鍼を通して赤ちゃんへ提案してみる。

でも、
最後に決めるのは赤ちゃん。

私はそんな気持ちで臨床をしています。


「仕事脳」から「子育て脳」へ

勉強会でもお話ししましたが、

仕事では、
ゴールを決め、
逆算し、
計画を立て、
結果を出します。

でも、

子育ては違います。

私は、

目標から逆算して成功した子育ての話を、まだ聞いたことがありません(笑)。

相手は他者です。

思い通りになるはずがありません。

だから逆子という出来事も、

「思い通りにならない」ことを教えてくれる、

親になる最初のレッスンなのかもしれません。


鍼灸師だからできること

今回のアンケートでは、

「鍼灸師だからこそできる寄り添いがある」

という感想もいただきました。

私もそう思います。

私たちは、

鍼をしながら話ができます。

お灸をしながら不安を聞けます。

一緒に考えることができます。

だからこそ、

  • 不安を煽らないこと。
  • 言葉を学ぶこと。
  • 寄り添い方を学ぶこと。

それも鍼灸の技術なのだと思っています。

振り返れば、

「あの時の言い方は良くなかったな」

と思うこともたくさんあります。

きっと私は、

多くの妊婦さんや助産師さんに育ててもらった鍼灸師なのでしょう。


物語を書き換える仕事

勉強会では、

「不安いっぱいの物語を、安心できる物語へ描き直すお手伝いをすることも、私たちの仕事ではないでしょうか。」

という話をしました。

以前、

私は

「治療はフィクションである」と、鍼灸師の友人に教えてもらいました。

もちろん、

医療はエビデンスに基づいて行われなければなりません。

しかし東洋医学では、

四診で得られる情報だけではなく、

  • 患者さんの表情
  • 暮らし
  • 不安
  • 希望

そうした数値では測れないものも含めて、

治療という一つの物語を組み立てていきます。

以前、

「患者三様、十人十色。四診で得た情報に、自らの五感をフル動員して精査し、治癒へ導く壮大な物語。」

といった感じの文章を書いたことがあります。

同じエビデンスの中でも、

どんな物語を描くかは、

最後は鍼灸師に委ねられます。

登り方は違っても、

目指す山頂は同じ。

私はそんなふうに思っています。

逆子になると、

  • 「帝王切開になるかもしれない。」
  • 「私が悪かったのかな。」

そんな物語が始まります。

でも、

  • 「赤ちゃんは元気。」
  • 「今気づけてよかった。」
  • 「できることをやってみよう。」
  • 「最後は赤ちゃんを信じよう。」
  • 「気づかせてくれてありがとう。」

そんな物語も描けます。

事実は変わりません。

でも、

物語が変わると、
心が変わる。

心が変わると、
身体も変わる。

そんな場面を、私はこれまで何度も見せてもらいました。


最後に

今回改めて思ったのは、

私が勉強会でお伝えしたかったのは、

逆子治療の技術だけではなかった、

ということです。

妊婦さんが安心できるように。

赤ちゃんが動きやすいように。

家族が前向きになれるように。

その環境を整えること。

そして、

胎児もまた、一人の他者であること。

実は私は、

鍼灸師の先生方から学んだこと以上に、

妊婦さんや助産師さんから教えていただいたことの方が多いように思います。

だから今でも勉強中です。

参加してくださった皆さま、

本当にありがとうございました。

またどこかでお会いできたら嬉しいです。

その頃には、

おおしたさんも、

もう少し賢くなっている予定です。

……予定だけは(笑)。

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