風邪をひいたばかりの子を連れて、鍼灸院に来る親御さんは、ほとんどいません。当然ですよね。熱があるなら、まず家で休ませるか、必要なら小児科ですから。鍼灸院は、せいぜい第2、第3の選択肢。試合が終わってから駆けつける応援団のようなものでしょう(笑)。来られるのはたいてい「治りかけなのに長引く」「毎月のようにひく」という段階です。それでも、子どもの風邪との付き合い方を知っておくと、親御さんの気持ちはかなり楽になるはずです。
子どもは、よく風邪をひきます。皮膚も呼吸も免疫も発展途上で、外からの影響を受けやすいからです。ただ、東洋医学では、それを悪いこととばかりは考えません。たとえば、熱が上がりきるまでは寒がって手足が冷たく、やがて汗が出始めると熱が下がっていきます。この流れをしっかり通りきると、すっきりした顔になるお子さんもいます。昔から「風邪をひいて強くなる」と言われるのも、そのためでしょう。汗、お通じ、おしっこ。体から出す力が育てば、気持ちを吐き出す力も育ち、心まで溜め込みにくくなる。これが私の見立てです。
そこで大事になるのが、親御さんの表情です。子どもは、親の顔をよく見ています。夜中に慌てて病院へ向かうときでも、親だけは「顔は笑って、心で泣いて」でいてほしい。映画『ライフ・イズ・ビューティフル』で、ナチスの収容所に連行された父グイドが、自分も怖いのに、幼い息子に「これはゲームだ」と言い続けたように。もちろん、そこまでの名演技は求めません。ここは肝っ玉母さん的女優魂で乗り切りましょう。心配は、子どもが寝てからで十分です。子どもに伝わるのは、症状より、周りの大人の空気なのですから。
では、七施鍼灸院で何をしているか。小児はりは、皮膚に刺さない専用の道具で、なでるようにやさしく刺激します。風邪のときは、背中の上の方、左右の肩甲骨のあいだにある身柱というツボのまわりに反応が出やすいので、その周りの皮膚を、特にゆっくり整えていきます。すると巡りがよくなり、体が風邪を乗り越えようとする力を支えられます。その結果なのか、治りが早くなるように感じています。もちろん、個人差はあります。ご家庭では、温かい飲み物を用意し、背中をさすり、ぐっすり眠らせてあげてください。これがいちばん手堅い方法だと思っています。
子どもの風邪は、敵ではありません。体が外の世界と折り合いをつけていく、成長の通過点です。過剰に怖がらない。かといって放置もしない。ぐったりしている、呼吸が苦しそう、水分がとれない、生後3か月未満で熱がある、といったときは、迷わず医療機関へ。夜間に迷ったときは、小児救急電話相談(#8000)も頼りになります。熱が高くてつらそうなときも、解熱剤を含めて小児科で相談してかまいません。そして、様子を見られるときは、「おっ、熱が出始めたね。これを乗り越えたら、また一つ強くなるね」と、温かく見守ってあげてください。熱を上げる力、汗を出す力を、鍼灸で支えていく。私が大切にしたいのは、風邪さえも「治す」より「育てる」という考え方です。まずは親御さんの深呼吸から始めてみませんか。
子ども医療電話相談事業(♯8000)について 厚生労働省

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