― 妊娠・出産・子育てをめぐる「息苦しさ」の正体 ―
最近助産師さんとじっくり話をする機会がますます増えてます。
先日も助産師さんと子ども支援の方4人で始めた「まるっと」の集まりで、今後のことを色々話し合いました。
色々語り合うなかで、妊娠・出産・子育てをめぐる、今の社会が抱えている「息苦しさ」の正体が、少しずつ言葉になってきています。
鍼灸師として、そして日々、妊婦さんや子育て中の方と関わる立場として、今感じていることを少しまとめてみたいと思います。
「原因」を言われても、人は救われません
「冷やしたから逆子になった」
「食べすぎたから難産だった」
こうした言葉を、悪気もなくかけられることがいまだにあるようです。
でも、原因を指摘されても、今からではどうにもできないことが多すぎる!
その言葉は、支えになるどころか、「私が悪かったのかもしれない」という息苦しさを生んでしまう、、
「あれはダメ」
「これはダメ」
否定から始まる関わりは、すでに不安の中にいる妊婦さんを、さらに追い込んでしまいます。
人は「安全だ」と感じて、はじめて変われる
ポリヴェーガル理論では、人の心と身体は、「安全かどうか」を意志よりも先に、自律神経で判断していると考えます。
つまり、人は「大丈夫だよ」「心配しなくていいよ」と説得されて変わるのではなく、身体が安心を感じて、はじめて回復や変化が起こるのです。
赤ちゃんの突然死(SIDS)への対応も同じです。モニターや管理だけではなく、人の温もり、見守り、つながりが欠かせません。
ところで私は逆子の治療をすることが多いのです。
もちろん皆さん逆子ちゃんに頭を向いてもらいたいという思いで来院されます。
でも、不安やパニックが強い方の場合、あらかじめ帝王切開を選ぶことで、「安全」が確保されることもあるのです。
「逆子でよかったね」
「帝王切開が決まってよかったね」
という言葉が、安心につながる場合もあるのではないかと思っています。
ポリヴェーガル理論を一言で言うと
ここで最近話題のポリヴェーカル理論について少し説明します。
「人の安心・不安・フリーズは、自律神経が3段階で反応している」という考え方です。
提唱したのは、アメリカの神経科学者、スティーブン・ポージェス博士。
自律神経の3つのモード
① 安心・つながりモード
(腹側迷走神経)
- 安心している
- 人と目を合わせられる
- 声がやわらかい
- 呼吸が深い
- 回復や治癒が進む
「今ここは安全」と身体が感じている状態 (子育て・医療・ケアで、最も大切にしたい状態)
② 戦う・逃げるモード
(交感神経)
- イライラ、不安、焦り
- 心拍数が上がる
- 身体に力が入る
「危険かも」と感じている状態 (頑張りすぎる、緊張する、怒りっぽくなる)
③ シャットダウン・フリーズ
(背側迷走神経)
- 何も感じない
- 動けない
- やる気が出ない
- ぼーっとする
「もう無理…」と身体が諦めた状態 (トラウマ、産後、慢性疲労でも起こりやすい)
とても大切な「安全、安心」
- 人は意志より先に、身体で安全かどうかを判断している
- それは「甘え」や「怠け」ではなく、神経の反応
- 安心は、言葉よりも声・表情・触れ方・空気感で伝わる
人は「安全だ」と感じて、はじめて変われる。
妊娠・出産は今あまりにもアウェイ
最近の妊婦さんは、妊娠・出産・子育てのイメージを持ちにくくなっているように感じます。
子どもと接する機会は少なく、出産についても、身近な「モデル」に出会えないことが多い。
管理された出産が増え、専門家への依存は強まる一方で、本来の主体であるはずの妊婦さんが、自分で考え、選ぶ余地を失っているようにも思えます。
産後うつが増えている背景
産後うつが増えている背景には、出産方法そのものよりも、妊婦さんを取り巻く環境の影響が大きいと感じています。
自宅出産や助産院では、妊娠中から時間をかけて関わり、妊婦さんと周囲の人が一緒に出産に向かって準備をしていきます。その過程そのものが、「安心」や「つながり」を育てているように思います。
一方で、病院は本来「安全に出産すること」を第一に設計された場所です。
限られた時間や人員の中では、妊婦さん一人ひとりの不安や気持ちに、十分に寄り添うことが難しい場面もあるのが現実でしょう。
もし妊娠中から、助産師さんや産婦人科医と丁寧にコミュニケーションを重ね、自分の気持ちや不安を言葉にできる機会があれば、産後うつはもっと予防できるのではないかと思います。
産後うつとは、「弱さ」ではなく、自分のことで精一杯になってしまう状態のこと。
多くの産院が忙しい現状を考えると、病院だけにすべてを委ねることは難しい時代なのかもしれません。
だからこそ大切なのが、
妊娠中から「自分の身は自分で守る」という視点を持つこと。
そのためには、
「今、不安なんだな」
「今、無理をしているな」
と、普段から自分の状態を客観的に見つめる練習がとても重要になります。
自分を俯瞰する力
「今、不安なんだね」
「今、喜んでいるんだね」
感情を良い・悪いで判断せず、ただ気づいてあげること。
それが、自分で自分を整える第一歩です。
人とのつながりが、心を守る
自宅出産や助産院出産の良さは、医療の形態ではなく、人との関わりが途切れないことにあります。
産後うつを抑えるために大切なのは、
- 人との関係
- 出産へのイメージ
- 自分自身を俯瞰する視点
危機感は、神経を育てる
私たちは本来、危険と隣り合わせで生きてきた動物です。
適度な危機感は、神経を育てます。
キャンプや自然の中での体験、思い通りにいかない経験がよいのは、「今ここにあること」への感謝を育ててくれるから大切なことのように思います。
「ないもの」ではなく、「あるもの」に目を向ける
メンタルが落ちると、人は「ないもの」ばかりに目が向きます。
それは生存本能でもあるので、決して悪いことではありません。
でも、「ない」ことに気づいたら、それでよしとする。あるいは、別のもので代用する。
「ある」とわかった瞬間、自然と感謝が生まれます。
あるものに意識を向ける練習は、今の時代にとても大切だと感じています。
「終わった」と言う若者たちへ
終わった、、、
まるで、世界が終わるかのように使われる言葉。
でも、なにも終わっていません。
あるもので代用する力。今ここにあることに目を向ける力。
それを、もう一度取り戻したいと思います。
おわりに
助産師さんとの話しから感じたのが
- 管理よりも、温もり
- 正解よりも、安全
- 否定よりも、気づき
- 不安の抑圧ではなく、受容
そして何より、「自分と対話する力」こそが、妊娠・出産・子育てを支える土台であるということでした。
七施鍼灸院では、身体だけでなく、安心できる「場」そのものを大切にしたいと改めて思った次第です。



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