浅く刺す鍼が全身に効く理由 ― 表皮とホルモンのつながり
鍼灸治療において、2~3センチほど深く刺す鍼は、血液循環の改善や局所の鎮痛作用が確認されています。
しかし、その効果は基本的に局所的です。
もちろん刺した部分の血流が改善されることで、全身の血流もわずかに良くなりますが、深く刺す鍼は全身治療としては本来の目的ではありません。
では、なぜ「浅く刺す鍼」の方が全身に効くのでしょうか?
皮膚から生まれるホルモンと情動の関係
例えば、日焼けをした後に眠くなる経験はありませんか?
不眠症の方でも「日焼け後はよく眠れた」ということがあります。
実はこれは偶然ではなく、皮膚のダメージによって「サイトカイン」という分子が多く生成されることが関係しています。
サイトカインは、免疫系だけでなく情動にも影響することが報告されています。
つまり、皮膚が変化することで、身体にさまざまな物質が生まれ、その中には情動や自律神経に作用するものもあるのです。
表皮と視床下部を介した全身への影響
ここで思い出したいのが「オキシトシン」です。
オキシトシンは出産時の陣痛を起こしたり、乳汁の分泌を促したりするホルモンですが、実は視床下部で作られます。
視床下部は自律神経やホルモン分泌を統括する中枢であり、浅い鍼で表皮を刺激することで、この視床下部に影響を与えることができるのです。
オキシトシンの働きにより、他者への信頼や思いやりが高まり、母子関係や父子関係、さらには夫婦間の絆にも影響します。
このように、表皮に触れるだけで、全身のホルモンバランスや情動に変化をもたらすことが可能なのです。
浅い鍼の全身的効果
接触鍼は表皮を通して視床下部に働きかけます。
- オキシトシンの分泌に作用 → 信頼感が生まれ、うつ的症状が緩和
- 成長ホルモンに作用 → お肌の調子が改善
- ホルモンバランス全体が整う → 不定愁訴の改善
こう考えると、私が治療の幹としている経絡鍼灸治療は、単なる「気の調整」だけでなく、生理学的にも理にかなったものだと実感できます。
古典的な鍼灸治療でいうところの浅く刺す鍼の意味、表皮と視床下部の関係、そしてホルモンを介した全身効果。
これらにより、経絡鍼灸治療の奥深さをより感じていただけるのではないでしょうか。


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